マイクロ広角レンズの全て

5.レンズの焦点距離と絞り

MWレンズの撮影テクニック1

'05/6/12

Kochan


いよいよ今回から撮影テクニックのお話になるわけですが、最初に取り上げたのはレンズの焦点距離と絞りの関係です。

マイクロ広角レンズタイプB(顕微鏡対物レンズ5X)標準のCCTVレンズはLMVZ164(焦点距離1.6〜3.4mm)です。

このレンズは手頃な価格ですが、解像度も高くコストパフォーマンスの良いお勧めレンズです。また焦点距離の短い方は1.6mmと

カメラレンズの感覚と比較すると大変短いので驚きです。この最短焦点距離ではほとんど180度の視野がイメージサークルの中

に入っており、魚眼レンズといった方が良いかも知れません。長い方は3.4mmとなりますが、これも広角の部類となります。

この焦点距離の変化はいちばん手前のリングを回転させるだけですが、フォーカスを調整し直さないといけないので正確には

ズームレンズでは無く、単に焦点距離が変化する「バリフォーカルレンズ」といいます。これをズームにするには、レンズ群を複雑な関数

で移動させるヘリコイド溝を切らないといけないので、何倍にも高価になるばかりか誤差が解像度に影響を及ぼすことにもなるため、

マイクロ広角レンズ用途にはバリフォーカルで十分です。特に本マイクロ広角レンズでの使い方は仕様にない近場に(たとえば200mmが

最短使用距離となっているのを、レンズの先5mmで使用するなどバックフォーカスの位置を自在に変えられる)ピント面を持ってくる

ことなどをしますので、レンズの機能として用意されているフォーカスリングを結果的にレンズの焦点距離リングとして機能させて

しまっているなど、何でもありの状態とも言えます。たとえばフォーカスリングでレンズの前玉を最大前に送り出した状態で

焦点距離リングを1.6mmの位置にし、本体のフォーカス筒でピントを合わせれば、実質1.0mmのレンズになってしまいます。

又、前玉をいちばん引っ込めて、焦点距離を3.4mmにしてフォーカス筒でピントを合わせれば5mmのレンズとして使ってしまっている

ことになります。更に、本体のズーム筒を最大長にすることで8mmレンズとして使用することにもなるわけです。

前置きが長くなりましたが、前述のように話が複雑になるのを防ぐため、今回の実験では、前玉を前玉枠先端部が外側

枠先端部分と一致している状態でほぼ固定(僅かなピント調節には使う)し、大まかなピント調節を本体のフォーカス筒で行った

場合としました(この使い方がお勧めです)。また、前回と同様にイメージサークルがAPS−Cカメラの撮像エリアで

切り取られる様子がわかりやすい用に実験で用いたカメラは一回り撮像エリアが大きなEOS 1DMkIIを使用しました。

実験の内容のご紹介ですが、端的にいうと、深い被写界深度を得るためには絞り込めば良いのですが、このレンズはすでに

十分に深い被写界深度を持っていますのむやみに絞り込むと逆に障害も多くなり場面に合わせて使う必要がありますよといった

ことになります。

 

・焦点距離f=1.6mmの画像(ズーム筒最短)。前節で使用しましたテストチャートを正面から40mm離し(前玉からの距離)、絞り全開(絞りマークのバー半分の位置)での撮影です。この状態でAPSでは丁度、対角魚眼となることがわかると思います。左右の画角は40mm離れたところでA3ノビ(483mm)が丁度収まるとも言えます

・LMVZ164のレンズの最大焦点距離3.4mmでの画像です。前の画像も同じですが、絞りは全開(バーの位置は真ん中ですがこれ以上は本体の光学系で制限されています)ですから被写界深度は最小の画像となります。周辺のピントの甘さが拡大(クリック)図でわかると思います。画角はA3ノビの左右のサイズが丁度撮像素子対角の長さに一致しています

 

 

 

 

・これは中間の焦点距離2.0mm(1.6mmの目盛りから一つ目)での画像です。テストチャートの左右の長さが四隅に入っています。これから他は固定して、絞りのみを変化させ、図中赤の部分を拡大した画像を観察比較していきます。まず、この絞り最大(バーの中心:1/2)での拡大像が右の図となります

 

 

・中心解像度は申し分なく、(拡大をさらにしていくと撮像素子のピクセルサイズまで解像していることがわかります)コントラストも十分な状態であることがわかります。しかし画像の下(APSではケラレている部分)ではフォーカスの甘さと特に横線の解像が危なくなっているのがわかります。中心と周辺では距離が10倍近く違ってきますので、仕方の無いことです。また、レンズの中心方向に色ズレが目立っていることに気がつくと思います。これはCCTVレンズの性能そのものです

 

 

 

 

・これは、絞り中(バーの1/4)での画像です。中心の解像度が少し落ち気味ではありますが、ほとんど気にならないレベルです。一方、周辺の解像度は少し上がる(焦点深度が深くなっているため)効果が出てきています。

・これは、絞り最小(バーの端、完全に閉まっている訳ではないので便宜上1/8とします)の画像です。他の画像(遠近色々と混じっている場面)では全体を通して解像感はあるのですが、この様な平面での比較では明らかに中心から周辺に至る全体の解像度が落ち、周辺の色ズレが更にひどくなってきています。また、光学系の明るさも落ちるため動き物の撮影の制限も加わってしまいます。従って単純な構図においては絞りきり(1/8位置)状態での撮影はあまりお勧めできません。

 

 

・以上をまとめると、近場撮影においては球面収差を考慮(特に焦点面曲率が大きいことに気をつけること(あおりを入れると逆にこの特性を活かすことも可能です→後述)。LMVZ164の周辺色収差は絞り込むとひどくなる。また被写界深度は深くなっても解像度が全体に落ちて来るので絞り込み撮影はあまりしない方が良い。常用お勧め絞り位置はバーの1/4、ということになります。

 

 

次回以降の解説は

※ズームとシフト

※あおりの使いこなし

を予定しています。

 

 

 

 

 

  

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